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最高裁判所第二小法廷 平成3年(行ツ)107号 判決 1992年1月24日

上告人

土谷松治

右訴訟代理人弁護士

天野茂樹

被上告人

愛知県教育委員会

右争訟事務受任者

愛知県教育委員会教育長小金潔

右当事者間の名古屋高等裁判所平成二年(行コ)第一一号戒告処分取消請求事件について、同裁判所が平成三年三月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人天野茂樹の上告理由第一について

論旨は、原判決に関与した裁判官宮本増は、本件の第一審の口頭弁論期日において、数回にわたり裁判長裁判官として関与しているから、原判決には民訴法三九五条一項二号、同法三五条六号に違反した違法があるというものである。しかしながら、同法三五条六号の「前審ノ裁判ニ関与シタルトキ」とあるのは、前審の裁判の評決及び裁判書の作成に関与したときの意味であるところ(最高裁昭和三九年(行ツ)第二八号同年一〇月一三日第三小法廷判決・民集一八巻八号一六一九頁参照)、本件訴訟記録によれば、裁判官宮本増は、第一審の評決等に関与していないのであるから、原審において職務の執行から除斥されるべきものではない。論旨は、右と異なる独自の見解に基づき原判決の違法をいうにすぎず、採用することができない。

同第二について

論旨は、違憲をいうが、その実質において、被上告人が行った本件戒告処分は裁量権を逸脱・濫用した手続により行われたものであるのに、これを適法とした原審の判断は法令の解釈、適用を誤った違法がある旨を主張するものと認められるところ、所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に違法はない。論旨は、独自の見解に基づき原判決を論難するものであり、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木崎良平 裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 大西勝也)

(平成三年(行ツ)第一〇七号 上告人土谷松治)

上告代理人天野茂樹の上告理由

第一 原審の手続には、民事訴訟法三九五条一項二号、同法三五条六号に違反した違法がある。

一、民事訴訟法三九五条一項二号は、絶対的上告理由の一つとして、「法律により判決に関与することを得ざる裁判官が判決に関与したるとき」を挙げ、さらに同法三五条六号は「裁判官が不服を申立てられたる前審の裁判に関与したるとき」を裁判官の除斥原因としている。

これは、言うまでもなく、同一事件について、前審の裁判に関与した裁判官が、その上級審において再度関与することになれば、既に前審で形成された予断に基づいて裁判が行われることとなり、民事訴訟法が三段階の審級制度を設けて裁判の公正さと妥当性を図ろうとした趣旨が無意味になるからである。

二、本件においては、裁判官宮本増は、原審において、第一回口頭弁論(平成二年八月二〇日)から第六回口頭弁論(平成三年三月二七日の判決言渡期日)まで、全五回にわたる口頭弁論のすべてに陪席裁判官として関与しているところ、同裁判官は、原審の直接の下級審たる第一審の裁判においても、第一回口頭弁論(昭和六二年五月八日)から第六回口頭弁論(昭和六三年三月七日)まで、裁判長裁判官として関与していることが、記録上明らかである。

宮本裁判官の関与の程度は、右のとおり、回数及び期間の点でも実質審理の面でも、即ち、量的にも質的にも無視できないものであって、これは、原審判決が、同裁判官が前審たる第一審で形成した予断に基づいてなされたものと疑わせるに十分である。

原審判決が、その理由の冒頭において、「当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するところ、その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。」と述べるだけで、後記第二の「告知・聴聞手続と憲法三一条」に関する論点を除いては、控訴審裁判所としての独自の見解や認定を何ら示さず、もっぱら第一審判決の字句の形式的修正に終始していることも、右の点を窺わせるものである。

上告人が第一審判決を不服として控訴したのは、第一審の裁判官とは異なる裁判官で構成された控訴審の実質的な判断を求めるためであり、第一審判決の字句の修正にすぎない判決を求めるためではない。

右の結果として、上告人は憲法三二条により保障された、真に公正な裁判を受ける権利を侵害されたものといわなければならない。

三、以上により、原審の手続には、民事訴訟法三九五条一項二号、同法三五条六号に違反した違法があることが明らかである。

第二 被上告人が本件懲戒処分をなすにあたり、上告人に対して告知・聴聞の機会を与えなかったこと、及び、告知・聴聞の機会を全く予定していない懲戒手続により上告人に本件懲戒処分をなしたことには、憲法三一条に違反した違法がある。

一、被上告人が地方公務員法二九条に基づいて行う懲戒処分は、被処分者にとっては不利益処分であるから、その処分をなすにあたっては、憲法三一条に則り適正な手続が保障されるべきであり、被処分者に対し告知と聴聞の機会を与えなければならない。被処分者が自己を防禦する機会すら与えられないままに不利益処分を受けることとなっては、被処分者の権利保護に欠けるからである。

二、しかし、被上告人は、上告人に対して本件懲戒処分をなすにあたり、その手続の過程で告知と聴聞の機会をまったく与えなかった。

しかも、本件懲戒処分がなされた昭和五六年度には、被上告人は免職に該当する事案を一件扱ったが、その件においても告知と聴聞の機会を与えられなかった。

上告人の事例に限らず、被上告人においては、一般に懲戒処分を行う場合に、被処分者から直接に事情を聴取し弁明を聞く機会を設けていなかったことが窺えるのである(以上は、原審における証人柵木三代次の証言)。

三、原審は、その判決書の理由中の15丁において、要約「告知と聴聞の手続を採るか否かは、被控訴人の合理的裁量に委ねられているが、懲戒処分は被処分者の権利に不利益を与えるものであるから、処分の対象とされた事実の認定に争いがあり、その認定の如何によっては処分内容に影響を及ぼす虞れがあるなど、被処分者の権利保護のため告知・聴聞の機会を与える必要性のある場合も考えられ、そうした場合にその機会を与えることなくなした懲戒処分は、裁量を誤った手続によるものとして違法となるが、そうでない場合には違法ということはできない」と述べて、告知と聴聞の機会を与える必要がある場合とない場合とを区別している。

しかし、処分の対象とされた事実の認定に争いがあるか否かは、懲戒処分の手続中においては、そもそも被処分者に告知・聴聞の機会を与えなければ判明しないことであり、かかる告知・聴聞の手続が保障されることによって初めて、処分者の安易な事実認定や恣意が抑制され、不利益処分としての懲戒処分が、より慎重に行われるのである。

また、前記のように、被上告人はもともと、如何なる懲戒事例においても告知・聴聞の機会を設けてはいないのであるから、そのような懲戒システムの下では、告知と聴聞の機会を与える必要がある場合とない場合とを場合分けして考察してみても何ら実益がなく、かつ無意味である。

四、結局、被上告人の懲戒処分手続は、そもそも告知・聴聞の機会を全く予定していないという重大な制度的欠陥を有していたのであり、被上告人がかかる欠陥手続に則って上告人に本件懲戒処分をなしたこと自体が、そして、上告人に対して告知・聴聞の機会を与えなかったことが、いずれも憲法三一条の適正手続の保障の要請に違背するものであって、違法というべきである。

以上

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